消極的に一直線。【完】
校門を出ると、見慣れた下り坂が続いている。



倖子ちゃんは、白い息をはぁっと吐きながら、私の隣を、ゆっくりと、たぶん私のペースに合わせて歩いてくれている。



後ろからついてきている吉澄さんたちは、とても賑やかに楽しそうに会話をしているけれど、倖子ちゃんは、何も言葉を発しない。



きっと、私が何かあったことを察して、気を遣ってくれてる。


もしかしたら、私が話すのを待ってるのかもしれない。



話さなくちゃ。
倖子ちゃんには、話さなくちゃ。



「あ、の、」



歯切れの悪い音が、やっと口から洩れた。



その声に反応した倖子ちゃんが、どうしたの、と穏やかな顔を向けてくれる。



「実は、今日、昼休憩のとき、」



私が話そうとしていることを何となく察したのか、倖子ちゃんの目が少しだけ大きくなった。



「颯見くんの所へ行こうとしたら、鈴葉ちゃんが颯見くんと一緒にいて、」



うん、と倖子ちゃんが続きを促す。



「そしたら、朝羽くんに、話があるって呼ばれて、」


「え? 朝羽!?」



よほど驚いたのか、後ろの吉澄さんたちの会話も一瞬止まるほど、声が響いた。



倖子ちゃんは、それに気づいてはっと口に手を当てて、それで?、と顔を近づける。



「朝羽くんに、教えてもらった」


「教え……?」



倖子ちゃんは、ん?、と眉を寄せて、首を傾ける。



「颯見くんと鈴葉ちゃんは、」



両想いだって。そう言おうとしたら、喉の奥が詰まった。



「颯見くんと、鈴葉ちゃんはっ」



続きを言い出せない私に、倖子ちゃんのひそめていた眉が下がっていく。



「颯見くん、と、鈴葉ちゃんはっ、」


「うん……」



倖子ちゃんの手が、ぽんぽんと優しく頭に当てられた。



その瞬間に、喉から出かかって詰まっていた塊が、じわっと溶け出してさらさらと抜けていく。
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