消極的に一直線。【完】
私と颯見くんの二人きり、取り残された、空間。



「哀咲、」



静けさのなかで耳に届いた颯見くんの声。



少しだけ、緊張する。



「歩こ、か」



そう言って踏み出した颯見くんの一歩に合わせて、同じ歩幅の分、片足を前に出した。



「今日、来てくれてありがとな」



隣に颯見くんがいることが、なんだか落ち着かなくて、顔を俯けたまま小さく頷く。



「今日さ、」



颯見くんのいる方の、身体の右半分が、なんだかざわつく。


歩き方も、呼吸のしかたも、わからなくなってくる。



「休憩のとき、カズにあげたんだよな? 春風の紅茶」



どくん、と、鼓動が大きくうねった。



どうして、それを知っているんだろう。


もしかして、あの場のどこかに颯見くんがいたとしたら。


朝羽くんとの会話を聞かれていたのだとしたら。



そう思った瞬間に、得体の知れない汗が、手に滲んでくる。



私が颯見くんを好きなことも、颯見くんと鈴葉ちゃんが両想いだと告げられたことも、それを受け入れられなくて『春風の紅茶』で話を遮ったことも。



もし、聞かれていたなら、これから私は、何を告げられるんだろう。



「なんかさ、」



颯見くんの口から出てくる言葉を、止めたい。


まだ、何も言わないで。










「春風の紅茶、俺だけだと思ってたのにな」











え、と思わず声が漏れそうになった。



「なんて、な」



颯見くんから放たれた言葉は、あまりにも予想外で、思考回路が止まってしまった。



少しして、やっと働き出した思考回路で、その言葉の意味を追いかけていく。



それでも、まだ理解できない。



どういう、意味なんだろう。



「けど、」



まだその意味に追いついてないのに、次の言葉が紡がれる。
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