消極的に一直線。【完】
四方を校舎で囲まれた中庭は、冬のせいなのか、昼休みなのに人がぽつぽつとしかいない。



今日は、特に空気が冷たいせいかな。



そんななかを、ただ無言で前を歩く朝羽くんに、ついていく。



中庭の中央にある大きな桜の木が、肌寒そうに枝を延ばしていて、なんだか心臓が冷たくなった。



中庭の端にある木製のベンチの前で、朝羽くんの足が止まる。



「ここで、いい?」



朝羽くんがそう言いながら、ベンチに薄らとかかった霜をハンカチで拭いていく。



頷くと、朝羽くんは霜が払われたベンチに腰を下ろして、その隣に座るよう促した。



ベンチにそっと腰をおろすと、制服のスカート越しにひんやりと冷たい温度が伝わってくる。






「この前の話なんだけど、」



歯切れの悪い声が耳に届く。



何の話をされるのかは、言われなくてもわかってた。



「練習試合の日に話したことなんだけど、」



きっと、朝羽くんは、今、とてもつらい。



私よりも間近で長い間、かなわない想いを抱きながら颯見くんと鈴葉ちゃんを見てきた朝羽くん。



だから、私は、少しでも。私にとっての倖子ちゃんみたいな存在になれたらいい。



「あの時は、急にあんなこと言って混乱させてしまってごめん。だけど、」



前を見つめたまま、話す朝羽くん。



その横顔が、なんだか切なく見える。



「本当のこと、だよ」



それは、颯見くんと鈴葉ちゃんが両想いだということ。



少しだけ、冷たい風が耳に当たる。
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