消極的に一直線。【完】
久しぶりに見た気がするその姿に、心臓が揺れる。



だけど颯見くんは、目を大きく見開いて、次の瞬間、渡り廊下の手すりをひょいっと乗り越えた。



え、と声が漏れる。



後ろにいた鈴葉ちゃんが慌てて手すりに駆け寄ったのが見えた。



シュッと風が頬を撫でると同時に、颯見くんが中庭に着地した。



それほど高さのない渡り廊下で、高校生の男子なら軽々乗り越えられてしまう。






「何、してんだよ」






いつもの颯見くんからは想像もつかない。

聞いたこともない低い声。



空気が一瞬にしてピリピリと張り詰めた。



この状況に、思考が追いつかない。



明らかに怒っている颯見くん。


取り残された渡り廊下で不安げに瞳を揺らす、鈴葉ちゃん。



「あら、し……?」



不安げな鈴葉ちゃんの声が、冬の風のなかに消えた。



あんなに溢れて止められなかった涙は、いつの間にか引っ込んでしまっていて、頬が風に当たって渇いていく。



颯見くんが、ぐいっと朝羽くんの腕を引っ張った。



鋭い風が、颯見くんの髪を揺らす。







「なんで哀咲泣かせてんだよ……!」








小さく響いた声にならない声に、ハッと思考が動き出した。
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