消極的に一直線。【完】
「……ごめん」



謝った朝羽くんに、慌てる。



違う。違う。

勘違いさせてしまったんだ。



強張った身体を勢いよく立ち上がらせて、ぐっとスカートの裾を掴む手に力を込めた。



「そ、颯見、くん!」



絞り出した声が、中庭に響く。



朝羽くんの方にあった颯見くんの視線が、こちらにハッと飛んできた。



「あ……哀咲……」



さっきまでとは打って変わって力のない声が向けられる。



それとほぼ同時に、朝羽くんの腕をつかんでいた手が離れて、少しだけ安心した。



でも、早く誤解を解かないと。

泣いていたのは朝羽くんのせいじゃないって、ちゃんと伝えないと。



そう思って、深く息を吸い込む。



「ごめん、」



だけど、それを吐き出すより早く、颯見くんの声が耳に響く。



「ちょっと、こっち来て」



そう言って、自然と掴まれた、左手首。



ドクン、と心臓が音を立てて、脈が騒ぎ出す。



それに気づかれないように、意味もなく息をこらした。



颯見くんに引かれるままに、足を踏み出す。



だけど、二歩目を踏み出す前には、もうその手は離されてしまった。



触れていたのは一瞬の出来事だったのに、颯見くんの手の感触が左手首に残って疼いてる。



その場に呆然として立つ朝羽くんと鈴葉ちゃんを置いて、どんどん進む颯見くんに、ついていった。
< 175 / 516 >

この作品をシェア

pagetop