消極的に一直線。【完】
「いろんな種類あるねー!美味しそーっ!」



ハートに装飾されたチョコレート売り場の一角で、華やかに並べられたチョコレート達を、飛び跳ねながら眺める吉澄さん。



「でもやっぱり手作りじゃないとね!」



吉澄さんの視線がチョコレートから私に移って、ドキリと小さく鼓動が跳ねる。



去年までのバレンタインも手作りチョコレートは用意していたけれど、それはお父さんにあげる為で。


好きな人にチョコレートをあげるなんていうドキドキするようなバレンタインは、私のもとには訪れないと思っていたのに。



どうしよう。



“義理”という名目であげるんだから、こんな気持ちになっていたら駄目なのに。



颯見くんが、私の作ったチョコレートを食べてくれるかもしれない。



そう思ったら、少し恥ずかしくて、でも嬉しくて、どうにも落ち着かない。



じっとその場に立っていることができなくて、近くのチョコレート達を見て回るふりをする。



「哀咲さん、こっちにあったよ! 手作り用の板チョコ!」



不意に腕を引っ張られた瞬間、足元がもつれて体がバランスを崩した。



わ、と声が漏れる。










「……危ない」









倒れかけた私の身体に、スッと誰かの腕が絡まった。



あ、と言葉にならない声を漏らして、腹部にまわった腕から、その主へと視線を移動させる。





「鈍臭いな」



無表情のままそう言い落として、真内くんは視線を吉澄さんに向けた。



「歌奈、もう少し落ち着け」



腹部から伝わってきていた腕の温度がスッと消えて、起こった状況をやっと頭が把握した。



真内くんに、身体を抱えられて、倒れそうになったのを助けられたんだ。
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