消極的に一直線。【完】
放課後の部活。


なぜか吉澄さん達は、私がチョコレートを渡していない経緯を知っているようだった。



もしかしたら、吉澄さん達も、颯見くんにチョコレートをあげようとした誰かの会話を聞いたのかもしれない。








「義理って言いながらでも、渡せない?」



吉澄さんにそっと両手を握られて、温かい体温が伝わってくる。




義理だとしても。

私はこのチョコレートに、想いを乗せないなんて出来なかった。



義理としてのチョコレートなんて、作れなかった。



たとえ口では義理だと言っていても、私の気持ちは義理なんかじゃない。



そんな気持ちの入ったチョコレート、きっと颯見くんは受け取りたくないだろうから。



なんて、そんな言い訳ばかり並べているけど本当のところは怖いだけ。



好きな人からしか受け取らないらしい颯見くんに、義理だと言ったからって受け取ってもらえるとは限らない。


なにより、義理だって言ったって、そんな表面だけの嘘、すぐ見抜かれてしまいそうだ。



渡せない。






首を横に振った私を見て、吉澄さんは「そっか」と小さく呟いて手を離した。



それからは、誰もチョコレートの話題に触れることはなく。部活動が終わった。
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