消極的に一直線。【完】
運動部の声が飛び交うグラウンドの横を、テーブルゲーム部の人達と通り過ぎていく。



あの声の中に、颯見くんがいるのかな。



この期に及んでも、そんなことを考えてしまう。



そんな自分を戒めるためにも、絶対に、視線をグラウンドに向けてはいけない。



「歌奈、あの男に哀咲さんが狙われた理由まだわからないんだよな?」


「うん……。とりあえずアレが逆探知された可能性は無いって」


「じゃあ尚更どうしてなんだ?」


「哀咲さんがアレを持っているのをたまたまアイツが見て……とか?」


「あぁ……あり得ないことはないか」


「うーん……」



帰り道の吉澄さん達は、たまにこんなよくわからない話をしている。



だけど今は、そんな会話がとてもありがたかった。



休み時間に見た光景。
鞄の中にある渡せなかったトリュフ。



考えたくない。



いつもは聞き流していた吉澄さん達の会話に耳を傾け集中させる。



「原因の究明はプロに任せて、訓練生の僕達は哀咲さんの安全を見守る事が任務だよ」


「うん、そうだよね。あの男の追跡任務も外されたし」


「哀咲さんを襲うのは想定外だったもんなー。訓練生の俺たちには手が追えねーってことだよな」



会話は主に吉澄さんと西盛くんと洲刈くんで成り立っていて、真内くんはほとんど何も言葉を発さない。



聞けば聞くほど理解できないこの会話を、理解できないまま必死に聞いて。



家に着くまで、考えないように、落ち込まないように、無駄な心配をかけないように、耐えた。
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