消極的に一直線。【完】
私の家の前までたどり着くと、流れていた摩訶不思議な会話が止んだ。



少しだけ沈黙が流れて、立ち止まった吉澄さんが私に目を向ける。



「哀咲さん、あのっ――」


「また明日な!」



何かを言いかけた吉澄さんに、西盛くんが明るい声を被せた。



吉澄さんはハッとして、すぐふわっと笑う。



「またねー!」



手を振る吉澄さん。



きっとみんな気を遣ってくれている。



手を振り返しながら玄関のドアを開け、家に入った。



ガチャ、という音とともに、吉澄さん達から遮断された空間。



玄関の靴の様子から、今この家には自分一人しかいないことを悟った。



誰もいない。
誰も見ていない。



張り詰めていた糸が切れて、ゆっくりとその場にしゃがみ込んだ。



渡せなかったトリュフの重みが、肩に伝わる。



これで良かったんだ。



トイレの前で聞いた、あの会話を聞けて良かった。



鈴葉ちゃんからのトリュフを颯見くんが受け取っていた、あの光景を見られて良かった。



何も知らずに渡したりなんかしていたら……。



これで良かったんだ。



息が苦しくなって、膝に顔を埋めた。



どうしてトリュフなんか作っちゃったんだろう。



どうして受け取ってもらえるなんて思っちゃったんだろう。



恥ずかしいな。



熱くなった目頭を膝で押さえつけると、温かい水がふくらはぎに流れていった。



泣くなんて、おこがましいのに。



だけど、今だけ。
今だけ、泣くのを許してください。



誰もいない家の、誰もいない玄関で、声を押し殺しながら、小さく泣き続けた。



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