消極的に一直線。【完】
「ん……? あんた哀咲、か。今、出られるか?」



真内くんの低い声が、私に向けられる。



私に何の用事だろう。



真内くんとはテーブルゲーム部の中でも一番接点が無くて、話しかけられることもほとんどない。



インターホンのカメラの映像には真内くん以外に人がいる気配は無くて、ますます不思議に思う。



疑問を抱きながら、そっと受話器を置いて玄関を出た。






「突然悪いな」



そこにいたのは、インターホンのカメラに映っていた通り真内くんただ一人。



私が首を横に振ると、真内くんは私の顔を見て一瞬目を見開いた。



「あんた……泣いてたのか?」



真内くんの落ち着いた低い声が、いつもより強めに響く。


ハッとして顔を俯けた。



そうだった。

真内くんが訪ねてきたことが予想外で気が回らなかったけれど、今私の目は泣き腫らして赤いに違いない。





「……トリュフ、まだあるか?」



また予想外のその発言に、小さく胸が痛んだ。



颯見くんに渡せなかったトリュフ。


陽の目を見ることなく、鞄の中で眠っている。



せっかく作ったものだけど、きっと自分で食べることも出来そうにないな。



あんなに颯見くんへの想いを詰めたトリュフを、お父さんやお母さんにあげるのも、なんだか違う。



捨てなきゃいけない、かな。



じわりと目頭が熱くなって、慌てて目に力を入れた。



「哀咲、」



落ちてきた低い声が、ちょっと怒ってるようにも聞こえて、ハッと顔を上げた。



だけど、真内くんはいつもと同じ無表情。



「トリュフあるなら持ってきて」



そんな予想外のことを言われて、わけがわからないまま、鞄ごとトリュフを取ってくると、少し真内くんの表情が緩んだ気がした。



「行くぞ」



そう言って歩き出す真内くんに、訳も分からず慌ててついていく。



どこへ行こうとしているんだろう。



隣を歩く真内くんは、何も言葉を発しない。



だけど、私に歩調を合わせてくれているのを感じて、少し安心感を感じてしまう。



私は、泣いた跡のある顔を見られたくなくて、少し俯きがちに歩いた。
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