消極的に一直線。【完】
足が向かうのは、突き当たりの、人だかりのできた用具小屋辺り。



運動部の人達が和気あいあいと用具を片付けている姿が見える。



その中に颯見くんの姿を探しながら、坂道を転がるボールのように前へ前へと進んでいく。



頭の中では、まだ不安が大部分を占めているのに。



――颯見が受け取らなかったら、俺が代わりに受け取ってやる



悲しみの受け入れ先を見つけただけで、体が軽くなった。



これを勇気と言うのかはわからないけど。




もう、受け取ってもらえなくてもいい。

ただ、渡したい。それだけ。






「あー疲れた。帰りにカラオケ寄ろうぜ」

「お、いいじゃん。行こ行こ」



片付けをしている運動部の人たちの声が飛んでくる。



近づいていく、用具小屋。
近づいていく、渡す瞬間。



不安と勇気みたいな何かが混ざり合って、荒い息が苦しさを増していく。



走っているせいなのか、動悸が激しくておかしくなりそう。



もう、早く渡してしまいたい。

そんな投げやりな感情さえ湧いてくる。




「つーか今日サッカー部帰るの早すぎじゃね?」




ふと耳に届いた誰かの声に、馬車馬のように走っていた足が止まりかけた。



減速していく足に比例して、膨らんでいた何かが少しずつしぼんでいく。



「あー。女子が何人もチョコ渡しに来て練習にならなくて即解散だってさ」


「マジかよ、羨ましいなー」



そんな会話が聞こえて、減速していた足が駆け足から徒歩に、そして静止した。



走って荒くなった息の音が、耳にうるさく響く。



颯見くん、もう帰っちゃったんだ。

なんだ、そっか。




鞄の持ち手をぎゅっと握りしめて、体を方向転換させた。
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