消極的に一直線。【完】
「そんなに悩まなくても……」



クラスメイトの一人にそう声をかけられて、ぎゅっとマイクを握り締めた。



早く、言わなきゃ。








「あのさ、」



震える手に、倖子ちゃんの手が重なった。



「この子、歌うの超苦手なんだよね」



倖子ちゃんの手に私の手がマイクごと包み込まれる。



「だから、あたしとこの子、二人で歌わせてよ」



そう言い放った倖子ちゃんに視線を向けると、ニコッと返された。



「あーなるほどね」

「それで渋ってたんだ」

「えーじゃあ私も誰かと一緒がいい」



刺さっていた視線に解放されていく。



それと共に、ドクドクと暴れていた鼓動も鎮まっていく。



倖子ちゃんに助けてもらってしまった。



「二人は何歌うのー?」


「んーとね、あ、これこれ!」



倖子ちゃんのおかげで事なきを得た。



もし倖子ちゃんがいなかったら、友達がいなかったら、こんな展開にはならなかった。



友達ってありがたい。
すごくすごく、ありがたい。


だけど。





「はーい、曲始まりまーす!」


「がんばれよー!」








本当に、これで、よかった?







流れるイントロが歌詞の始まりに差し掛かろうとした、その時。


ガチャ、と部屋のドアが開いた。




< 232 / 516 >

この作品をシェア

pagetop