消極的に一直線。【完】
「あ! やっと来たか、颯見!」


「言い出しっぺの遅刻野郎!」



一斉に男子に声をかけられ、ごめんごめん、と笑いながら部屋に入ってくる。



「颯見ー! 遅いよー!」


「もうあたしらだけで盛り上がっちゃってるしー」



バックコーラスだけで進んでいく曲なんて聞こえなくなるくらい、空気が一段と賑やかになった。



「ごめんな。急に家の用事手伝わされちゃってさ」



颯見くんが、いる。

すぐそこにいる。



それだけで気持ちが高揚している自分に気づいて、少し恥ずかしくなる。



「で、今曲流れてるけど、これ誰が歌うやつ?」


「あー、あの子らだよ」



そうして指差された先を颯見くんの視線がたどって、バチッと目が合った。



ドクンと心臓が鳴る。



颯見くんの瞳が揺れて、次の瞬間、クシャッと笑った。



「そっか、頑張れ!」



トン、と胸の中で何かが音を立てた。



心に春風が吹く。



その言葉に背中を押されるように、マイクを倖子ちゃんからゆっくり奪った。



「雫?」



私は、このクラスの人たちと、仲良くなりたい。


クラスの輪のなかに、入りたい。



ムカデ競争の時と同じ。



私が頑張らなきゃ、それは叶えられない。



ドクン、ドクン、と鼓動が耳に響く。


片手を胸に当てて、一度、目をぎゅっと閉じた。



すぅっと息を吐く。


目を見開いて、大きく息を吸った。
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