消極的に一直線。【完】
向かったのは、校舎横にある自動販売機。



去年ムカデ競争のメンバーで初めてクレープ屋に行った時の教訓から、いつも千円札と小銭を小さい財布に入れて制服のポケットに持ち歩くようになった。



目当ての自動販売機の前に立って、ポケットから財布をだし、機械にお金を入れる。


ディスプレイされた紙パック達の中から、最初に『春風の紅茶』を見つけて、ボタンを押した。


カコンと音を立てて、それが落ちてくる。



一度だけあげた、春風の紅茶。

一度、渡せなかった、春風の紅茶。



それをそっと取り出すと、少し手が震えた。



お礼をするだけ。


たったそれだけなのに、渡す時のことを考えて、胸が高揚する。



それを振り払うように、もう一度お金を入れた。



倖子ちゃんには何をあげようかな。



考えながら、並んだ紙パックを上から順番に見ていくと、ふと、ひとつのパッケージに目が止まった。



“大人のブラック”



見た瞬間に、真内くんの顔が思い浮かぶ。




そういえば、真内くんにもまだ言葉でしかお礼を伝えられていなかった。



少し考えて、『大人のブラック』を買うことにする。



ボタンを押して落ちてきたそれを手に取り、やっと倖子ちゃんのためにお金を入れた。



倖子ちゃんは、どんなものが好きだったかな。



記憶を辿ると、一緒に遊んだ時も、昨日のカラオケでも、炭酸の入った飲み物を飲んでいたのを思い出す。



倖子ちゃんは、炭酸が好きなのかな。



自動販売機のディスプレイに目を向けて、炭酸の飲み物を探すと、『炭酸レモン』という字が目に入った。



これにしよう。


どうか、嫌いじゃありませんように。



願いながら、『炭酸レモン』のボタンを押した。
< 240 / 516 >

この作品をシェア

pagetop