消極的に一直線。【完】
「嵐いるー?」



ちょうど鈴葉ちゃんの声が聞こえて、ガラッと教室のドアが開いた。



「おー鈴葉。どうした?」



颯見くんの視線が、鈴葉ちゃんに移る。周りにいた男子たちも、会話をやめて同じく視線を移した。



「あ、いたいた。サッカー部顧問から伝言でね、――」



颯見くんと鈴葉ちゃんの、世界。



周りにたくさん人はいるのに、誰も邪魔をしない。誰も入れない。


それぐらいお似合いだと、みんなが思ってる。



そんな空気が伝わってきた。



……嫌だな。



ふと浮かんだ感情に自分で驚いた。



なんて厚かましいことを思ったんだろう。そんなこと思う権利、私にはないのに。


颯見くんと同じクラスになって、傲慢になっているのかな。



嫌な感情を抑え込もうと、視線を外して手に持ったままの教科書を片付けた。







「あ! 雫ちゃん!」



だけど、罪責の念に重りをかけるかのように、鈴葉ちゃんの澄んだ声が飛んできた。



少し後ろめたさを感じながら目を向けると、ニコッと笑って駆け寄ってくる鈴葉ちゃん。



「久しぶりだね!」



ポン、と。



鈴葉ちゃんの温かい手が、優しく頭の上に乗せられた。



驚いたのと同時に、さっきまでの嫌な感情が温かい温度に溶けていく。



「あ、急にごめんね」



手の温度が頭から消えたと同時に、鈴葉ちゃんが机のへりに手をついてしゃがんだ。



「なんだか元気ない? 大丈夫?」



小声で声をかけてくれる。



そっか。
だからなんだ。



頭に手を置かれた理由を悟って、嬉しいような、申し訳ないような気持ちになった。
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