消極的に一直線。【完】
授業中で誰もいない、静かな廊下。



「ずっと無理してたんだろ?」



歩きながら、颯見くんが私の顔を覗き込んだ。



思ったよりもそれが至近距離で、ドキッとする。



でもそれは一瞬で、颯見くんはすぐに前を向き直した。



ゆっくり、ゆっくり、私に合わせて進んでくれる颯見くん。



静かな廊下に、私の鼓動と二人の足音が鳴り響く。



颯見くんにもこの鼓動が聞こえてしまいそう。



風邪のせいなのか、この状況のせいなのか、頭がフワフワして、おかしくなってしまう。



変に思われたくなくて、平常心を保とうと体に力を入れた。




「哀咲、」



ピタっと颯見くんの歩みが止まる。



「え、」



肩に置いた手をそっと掴まれて、ゆっくり肩から降ろされる。



「あ、」



漏れた声と共に不安が渦巻いていく。



肩、重かったかな。


力入れちゃったから痛かったかな。


それとも、私の気持ちに気付いて――。



「ご、ごめ」

「後ろきて」



謝罪の言葉を言い切る前に、そう言った颯見くんがその場にしゃがんだ。



しゃがんだまま手を後ろに延ばす颯見くん。



その格好はまるで、おんぶするときのような。

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