消極的に一直線。【完】
ゆっくり歩き出す颯見くんの振動が、私の身体を揺らす。



少し前まで寒く刺さって辛かった窓からの風が、いつの間にか少し和らいでいた。



ただ、鼓動の音だけが、私の中で騒いでいる。



「哀咲、」



名前を呼ばれて、うるさいままの心臓が、小さく一回動きを変えた。



「もっと、俺に甘えてよ」



トクン、トクン。
心臓の音が、もう颯見くんにも聞こえてるかもしれない。



もう、颯見くんのどんな言葉を聞いても、都合よく解釈してしまいそうになるのだと思った。



風邪のせい。
それか、こんなに密着しているせい。

いや違う、私が颯見くんを好きなせい。



厚意で言ってくれていることなのに。



そう思いながらも、言葉の真意に期待しかけるのを、また止める、の繰り返し。



鼓動が、もうずっと鳴り止まない。



「……て、言われたって困るよな」



独り言のように呟いた颯見くんに、ハッとして首を振った。



私が何も言わないから、また気を遣わせてしまった。



「優しく、してくれて、ありがとう」



言いながら、騒ぐ心臓が口から出てしまいそう。



「……うん」



小さく聴こえた颯見くんの返事にすら、鼓動が反応する。
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