消極的に一直線。【完】
密着した腹部が熱い。



颯見くんの息遣いがすぐ近くから聞こえてくるし、脚に回された腕の感触が、さらに鼓動を掻き立てる。



「ちょっと揺れるよ」



そう言って、颯見くんが、私を乗せたまま階段をトントンとテンポよく下っていく。



保健室は、階段を下りたすぐの正面にある。



もうすぐ、この時間が終わる。



揺れる視界を見つめながら、ふと、もっとこうしていたい、と不純な感情が湧いた。



すぐにそれを否定する。



私はきっと、傲慢になってるんだ。



颯見くんにとったら、重くて大変だし、授業も受けたかったはず。


ここまで背負って来てくれただけでも、すごく迷惑をかけてるのに。



階段を下まで下りきって、ピタッと颯見くんの足が止まった。



目の前に、保健室の扉。



着いて、しまった。


この時間が、終わってしまった。





降りなきゃ、と足を下に延ばした。



それを感じただろう颯見くんの腕が、そっと脚から放れていく。



緩く屈んでくれて、トン、と足が廊下に着いた。



「あの、ありがとう」



密着していた颯見くんの背中と私のお腹の間に冷たい空気が流れていく。



「うん」



背を向けたまま颯見くんが応えて、ガラッと保健室の扉を開けた。
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