消極的に一直線。【完】
「も、もしもし」


「あ、雫! 身体大丈夫?」



倖子ちゃんの声が機械を通して少し違ったように聞こえてくる。



「うん。もう楽になったよ」


「そっかー、よかった!」



心配してかけてくれたんだなぁ、と自然に頬が緩んだ。



「あの、ありがとう」


「いや本当はさー、昨日の放課後もチャイム鳴ってすぐ保健室行ったんだけど、真内がいてさ、」


「ああ、」


「なんか話してたし、入るのやめたんだよね」


「そうだったんだ」


「ごめんね」


「ううん。私も、昨日、教科書とか、片付けてくれてて、ありがとう」


「ああ、それぐらいはさせてよね」



嬉しい。
こんな風に電話をかけてくれて。



「けどほんとに元気そうでよかった」


「ありがとう」


「うん」



電話の奥から、倖子ちゃんの家の生活音がよく聞こえてくる。



少しの間があいて、「今日さ」と倖子ちゃんが続けた。





「颯見が雫のこと、超心配してたよ」






耳に当てた受話器から突然飛び込んできた名前に、心臓が大きく飛び跳ねた。



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