消極的に一直線。【完】
「全員書き終わったかー?」



黒板前の人集りはすっかり消え去って、太吉先生だけが教壇に立つ。



「じゃあランダムに……」



太吉先生がくるりと背を向けて、縦線の上側を飛び回りながら番号を書いていく。



「太吉先生ー、横線はー?」


「面倒だから書かん」


「ははは、何それ適当」


「あー隣誰かなー」


「ドキドキするー」



ザワザワと沸き立つ教室で、私も気持ちが落ち着かない。



カンカンと心地よく鳴り響くチョークの音が、よし、と言う声とともに止んだ。



チョークを置いた先生が、パンパンと手を払いながら顔だけ生徒の方に向けた。



「今から一人ずつ番号読み上げるから、自分の番号よーく覚えとけー」



間延びした号令に、はーい、と誰かが返事する。



「じゃあいくぞー。1番沢井ー、2番太田ー、」



始まった運命の番号発表の時間。


さっきまで賑わっていた教室が、一気に静まった。



次々とテンポよく呼ばれる名前を聞き漏らさないように、先生の間延びした声に耳を傾ける。



「10番藤井ー、11番寺泉ー、」



飛んできた名前に脳が反応したけど、名前はその間も休みなく呼ばれていて、何かを考える暇がない。



「18番近藤ー、19番颯見ー」



また、脳が反応した。



心臓が小さく騒ぐ。



それに気付かないふりをして、点呼のように呼ばれていく名前に意識を集中させる。




「29大西ー、30田中ー、」



いつの間にか数字に“番”が付かなくなって、先生の声も気だるげになってくる。



「34佐々木ー、35哀咲ー、」






やっと呼ばれた名前。



無意識に強張っていた肩から力が抜けた。



先生の声を聞き流しながら、自分の番号と倖子ちゃんの番号を思い出して脳にインプットする。




「37笹野ー、38枡屋ー……と、以上だな」



全員の名前を呼び終えた先生が、ふー、と息を吐いた後、教卓の上で何かを書き始めた。
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