消極的に一直線。【完】
「で、」



颯見くんが、私の前の席の椅子をガタっと引いて、背もたれを前にして跨った。



「哀咲は何の種目?」



急な振りで、自分に会話が来ると思わなかったから、一気に緊張が走る。



「え、え、えっと……」



急なことだったから、鼓動が少し速い。


でも、颯見くんは、何も言わないまま、急かさずに私の言葉を待っていた。


その瞳が、すごく優しく感じて、緊張がスーッと解けていった。



「ムカデ競争……だよ」



私が言うと、颯見くんは満面の笑顔を浮かべた。



「そっかぁ! 応援する!」



ほらまた。
私の心に、春風が吹いた。



「おい、嵐。他のクラス応援してどうすんだよ」



朝羽くんが少し笑いながら言うと、颯見くんも「確かに」と笑った。



「あ。けど、リレーは絶対負けねぇからな。特にカズには」


「こっちこそ負けないよ。嵐にも、鈴葉にも」


「鈴葉は女子の部だけどな」


「……知ってるよ。クラスとしての話だよ」



また二人の会話に戻って、それを聞いている自分。それだけでも、その時間は、一人でいるときと全然違う。

もっと続いてほしいって思う。



だけど、そういうときほど、時間は早く過ぎて、すぐに終わってしまう。



この時間も、クラスメートの「颯見、時間やべーぞ」という言葉によって、終わりを迎えてしまった。



颯見くんはハッと時計を見て、そのクラスメートに「さんきゅーな」と言いながら、慌てて教室を出て行った。
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