消極的に一直線。【完】
「嵐、早く連れてけ」



それなのに私は、具合悪くないから大丈夫です、なんて言う勇気がない。



ううん、違う。



私は颯見くんと二人で保健室に行けることを、心のどこかで喜んでるんだ。



二人になったら、私と居たくない颯見くんの態度を、改めて認識させられてしまうことになるのに。



それはすごく怖くて不安なのに。

倖子ちゃんにも心配させてしまっているのに。

太吉先生にだって、具合悪いと思われて気を遣わせてしまっているのに。



それなのに、胸の奥の奥で、鼓動が躍っている。






ガタ、と隣の席から椅子の動く音が聞こえて、颯見くんの気配が私の真横に近づいた。



「行こ、か」



少し気まずさを含んだ声色が落ちてくる。



具合が悪いなんていう自覚はないのに、私も頷いて立ち上がる。



「雫っ」



倖子ちゃんが心配そうに振り返って立ち上がった。



「寺泉、座れ」



太吉先生に抑圧されて、倖子ちゃんはキッと太吉先生を睨んで席につく。



椅子に座ったまま振り返った倖子ちゃんが、「後で行くね」と眉を下げて小さく手を振った。



本当に、心配かけてしまってる。



罪悪感でいっぱいになりながら頷いて、教室を出た。
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