消極的に一直線。【完】
「俺が教える!」



パサっと問題用紙を吉田くんの手から抜き取った颯見くん。



「え、え? 颯見って英語苦手じゃなかった?」


「吉田よりはマシ」


「いや、まぁそうだけど」



戸惑う吉田くんにつられて、つい颯見くんに視線を向けていた。




手に取った問題用紙を睨みつけるように読んでいる。



ふわっと揺れる黒髪。

そこからのぞく整った横顔。

問題用紙を掴む長い指。

角ばった手。



今までできるだけ見ないようにしていたものが、禁断症状を解かれたみたいに勢いよく目から脳に伝達されていく。



颯見くんだ。



トクン、トクン、と、心臓が音を強める。



押さえ込もうとしていた想いが、呆気なく解き放たれていく。



「あー、颯見の負けず嫌いが出たな」

「哀咲さんにまで負けず嫌いかよ」



周りの男子達が、笑いながら颯見くんの頭をぐしゃぐしゃと弄った。



「ちげーよ」



そう言って手を振り払う颯見くん。



もしかしたら颯見くんは、喋るのが苦手な私を助けてくれたのかもしれない。



「哀咲にじゃなくて、吉田に、だよ」



クシャッと髪に片手を当てて、颯見くんがポツリと呟いた。
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