消極的に一直線。【完】
どういう意味なのかはよくわからないけど、そんなこと気にならないぐらい、サマになったその仕草に視線が吸い込まれてしまう。



鼓動が主張を続けている。


目が、離せない。



きっとそれは、久しぶりに颯見くんをしっかりと見たせいで。



私は結局、何も想いを制御することができていなかったんだと思い知らされる。



「中雅鈴葉」



倖子ちゃんの少し不機嫌な声。


その名前にドクンと心臓が揺れて、慌てて颯見くんから視線を外した。



「雫に話があるんじゃないの?」



そう言った倖子ちゃんに視線を向けると、倖子ちゃんは私の背後に目を向けている。



「雫ちゃん」



背後から聞こえた澄んだ声。



ゆっくり振り返ると、いつの間にか私の後ろに立っていた鈴葉ちゃんがふわっと笑った。



さっきまで颯見くんを見つめていた自分に、一気に罪悪感が押し寄せる。



「今日って部活ないよね?」



鈴葉ちゃんが、遠慮がちに尋ねてきた。



「当たり前じゃん」



私の代わりに倖子ちゃんが答える。



そうだよね、と鈴葉ちゃんは呟いて、もう一度私に視線を向けた。



「じゃあ、帰る前に少しだけ二人で話できないかな?」



無理にとは言わないけど、と続ける鈴葉ちゃん。



わざわざ二人になって話すことって何なんだろう。



考えて、思い当たることを浮かべたら、不安だけが渦巻いた。



もしかしてさっき颯見くんを見つめていたのを見て、私の気持ちがバレてしまったのかな。


それとも、颯見くんと鈴葉ちゃんの間に何か進展があって、それを聞かされるのかもしれない。






「雫、行っといで」



渦巻く不安思考を、倖子ちゃんが遮った。



「大丈夫、あたし教室で待っとくからさ」



ポン、と肩を叩かれる。



その言葉は、何だか「後で話を聞いてあげるよ」って言ってるように聞こえた。



不安な気持ちが軽くなって頷くと、鈴葉ちゃんが「ありがとう」と優しく笑った。
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