消極的に一直線。【完】
「颯見」



低い声が響いて、颯見くんがゆっくり振り返った。


つられて私も真内くんを見る。






「振り回してんのは、颯見、あんただ」







ポツリと落とされるような低い声が静かに響いた。



「は、――」


「あんたが哀咲を幸せにできねーなら、」



颯見くんに向かっていた真内くんの視線が、ストンと私に落ちてきた。









「……俺が、もらう」













真内くんの声が蝉の声に混ざって溶けた。




瞬間。




「わっ……?」






……え…………?




颯見くんにグイッと手首を引かれた。




視界が揺れて、視線が真内くんから外れる。



強く引かれて、階段に下ろしていた腰が浮く。





「あっ……」



身体が前に倒れこんで、ドサッと温かいものに受け止められた。



それが颯見くんの胸板だと理解した瞬間。

はっと息が止まった。





呼吸が止まったまま数秒間。


高鳴る心臓の音だけが耳に響く。







「ごめん」



耳元から小さく届いた颯見くんの声に、心臓が大きく跳ねた。



は、と一気に息を吐き出して、体勢を立て直そうとすると、それを感じたらしい颯見くんがスッと手首と体を離した。






今の、何だったんだろう。



身体に感じた熱い温度が、まだ残ってる。



ドクドクと脈が主張して煩い。



顔に熱が上がってきて、目が回ってしまいそう。
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