消極的に一直線。【完】
「カズはいっつも、寺泉さんが私を虐めてるとか言ってたけどね、私はそんな風に思ったことないよ」


「はぁ」



いや、あたしはそんな話はしてないんだけど。



ってか何、朝羽ってあたしのことそんな風に言ってたわけ?


まぁどうでもいいけど。



「寺泉さんが私にあんな態度とる理由も知ってるよ」


「は?」


「関谷くん、でしょ?」



その名前を聞いた瞬間に、心臓が跳ねて、思わず中雅鈴葉を睨み付けた。



関谷。
それはあたしの元カレの名前。



中二から付き合って、高校入学後数日で、中雅鈴葉を好きになってあたしをフッた元カレだ。



「関谷くんから告白されて、その後で寺泉さんのことも知ったの。もちろん気持ちには応えられないって断ったんだけど」



にこやかにそんな話をする中雅鈴葉は、あたしに喧嘩でも売ってるんだろうか。



「私ね、こういうこと結構あるんだよ」


「なにそれ自慢?」


「ううん。寺泉さんみたいに、恋愛のことで恨みを持たれること。よくあるの」


「……へー」


「そういう人は陰で、嫌がらせする。自分だとバレないように。私のそばにいるカズや嵐に見つからないように」



中雅鈴葉はどうしてこんなことを、笑って話してるんだろうか。



「だけど、寺泉さんは逆だったでしょ」


「は?」


「寺泉さんは、周りに人がいる時にしかあんな態度とらないし、陰では何もしないし、私と二人の時はこんなに優しい」


「は? いつあたしがあんたに優しくした?」


「今!」



ふわりと笑った中雅鈴葉。



きっとあたしが男だったらこの笑顔に悩殺されてるんだろうなと思う。



関谷の気持ちもわからなくはないかな、なんて、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、納得した。
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