消極的に一直線。【完】
「浮気されて、好きじゃないことに気づいたって感じ」


「そうなんだ」


「あーあ。あたしも雫みたいな一生懸命な恋、してみたいなぁ」


「寺泉さんならできるよ。まだそういう相手に巡り合ってないだけ」


「慰めどーも。需要があれば、あたしもあんたを慰めてあげるけど」


「うん。じゃあまた、こうやって話してくれる?」



そう言われるとは思ってなくて、一瞬、言葉に詰まった。



中雅鈴葉は、相変わらずふわっとあたしに笑顔を向けている。



この向けられる笑顔も、なんだか悪い気はしなくなっていた。



「……好きにしたら」


「ほんとに? 嬉しい!」


「あ、でも、雫と颯見を仲違いさせるような協力とかは一切受け付けないからね」


「もちろん! そんなことしないよ。だって、」



中雅鈴葉は、また空を見上げた。



少しだけ遠くを見つめる横顔が切ない。



「雫ちゃんだけだもん。嵐をあんな風にするの」



敵わないよ、と続けた。



「ずっと一緒にいたのに、嵐があんな顔するなんて、知らなかったなぁ」



今この子は、颯見のどんな顔を思い出しているんだろうか。



どんな気持ちで言ってるんだろうか。




誰もが、颯見は中雅鈴葉が好きだと思って疑わなかった。



どんなに颯見が雫にそんな素振りを見せても。



中雅鈴葉という存在がいる限り、それは揺るぎないもので。



雫の近くにいたあたしすら、気付かなかった。



それを、当の中雅鈴葉だけは、ずっと気付いていたんだ。一番近くで、ずっと。


誰も気付かなかったのに。



この子は、ちゃんと颯見を見ていた。

本当に好きだったんだ。



「あんたが颯見を好きだったことも、その上で雫と颯見の幸せを喜んでることも、」


「うん?」


「あたしが全部、雫の分まで、ちゃんと知っておくから」



そう言うと、中雅鈴葉は一瞬目を見開いて、また、ふふ、と笑った。



「やっぱり寺泉さんは優しいね」


「……どーも」



空は高く、日照りは痛く、蝉は煩い、夏の日。



あたしと中雅鈴葉は、少しだけ笑い合った。




~倖子side end~
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