消極的に一直線。【完】
「つまり高校生活というのは、切磋琢磨、文武両道――」



蒸し暑い体育館に、定年越え疑惑が浮上している校長の、震えた声が響いている。



部活と遊びで一瞬にして夏休みは過ぎ去り、今日は始業式。


高一の二学期が始まる。



熱のこもった空気の悪い体育館で、クラスごとに並び、立ったまま校長の話を聞くこの儀式。


に、たぶん生徒のほとんどは意味を見出せていない。



俺もその内の一人。



とりあえず話は聞いているけど、頭には全く入ってこない。



「なぁなぁ颯見」



同じクラス且つ同じサッカー部の吉田が、隣から俺の腕を遠慮なくバシバシ叩いてきた。



「いてーよ、どうした?」



振り向くと目に映ったのは、小柄な吉田の明るい茶髪。

それからゴムで結んだ噴水みたいな前髪。



「ほらあれ見ろ。誰か倒れたっぽいぞ」



クイックイッと視線と顎でどこかを指す吉田。



そのたびに前髪がピョンピョンと揺れ動く。



「相変わらず元気だな、その前髪」


「ありがと!」


「褒めてねぇ」



そんなやりとりをしながら、指された先に視線を送った。
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