消極的に一直線。【完】
「ま、気にせずクレープ頼もうよ。あたしはやっぱりイチゴチョコ」



大西さんがテーブルに置かれたメニューシートの一点を指差しながら言うと、佐藤さんと笹野さんもそのシートを覗き込んで、手早く決めていく。



「あたしはチョコバナナにする。雫は?」



倖子ちゃんに訊かれて、慌ててテーブルの上のメニューシートに視線を向けた。



思っていたよりもたくさんの種類があって、何が何だかよくわからない。



でも、もたもたしていたら、みんなに迷惑をかけてしまう。


奢られる身なのに、これ以上迷惑なんてかけられない。



焦りながら視線をシートの上で巡らしていると、倖子ちゃんが、スッとシートを私の方に寄せた。



「ゆっくりでいいよ」



――ゆっくりでいいんだ。話してほしい



なぜか倖子ちゃんの言葉にシンクロして、体育館倉庫裏での颯見くんの声がふっと思い出された。



トンっと小さく胸の奥が音をたてる。



「あたしのおすすめクレープはチョコクッキーバナナだよ」



大西さんの声でハッとまたシートに視点を合わせて、チョコクッキーバナナを探して指を指した。



「じゃ、じゃあ、これ、にしようかな」



自分の発する言葉のぎこちなさに少し落ち込みながら、顔を上げた。



「うん! 絶対おいしいからね!」



大西さんはにこっと笑って、お店のおばちゃんを呼び、注文をしてくれた。
< 68 / 516 >

この作品をシェア

pagetop