消極的に一直線。【完】
一年生の部始めます、とマイクを通した声が響き渡る。



いちについて、よーい……パンっと始まりの銃声が鳴った。



「いくよー! せーの」



倖子ちゃんのいつもの掛け声で、いち、と左足を前に出す。



に、いち、に、いち、に、いち、に……とみんなに合わせて声を出しながら、進んでいく。



昼休みや、みんなが練習していない普通の休み時間、大縄に入るまでは放課後も、ずっと練習してきた。



きっと、どこのクラスよりも、練習したと思う。



だからなのかな。

なんだかムカデ競争に対する思い入れはとても強くて、必死に声を出した。



「いち! に! いち! に!」



もう少しで、ゴールの地点。



もう、みんな、掛け声は初めて十歩を超えたときのように、叫び声になっている。



「いち! に! いち! に!」



パンっと、銃声が鳴り響いて、きゃーっと大西さんの叫び声があがった。



「おめでとうございます! 板を外して、一位の旗の後ろに並んでください」



係りの人に言われて、板の紐を足からほどこうとするのに、緊張しているわけでもなく手が震えて、上手く紐を掴めない。



やっと紐をほどき終わって立ち上がると、バッと温かいものに包まれた。



「雫、やったね、一位!」



倖子ちゃんが私を抱きしめながら、高揚した声で言った。



その声を聞いて、私も、溜め込んでいたものが溢れだすような気持ちになる。



「雫ちゃん、寺泉、みんな、ありがとう!」



佐藤さんがそう言って、私と倖子ちゃんの上から抱きしめた。


それに続いて、大西さんと笹野さんも、その上から抱きしめてくる。



温かい温度。


こんなに満たされた気持ちがあるなんて、知らなかった。


言葉では言い表せない、こんな素敵な気持ち。



「はいはい、感動するのはいいけど、先に移動してくださいね」



係りの人に引きはがされて、溢れる思いに満たされたまま、一位の旗の後ろに移動した。
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