消極的に一直線。【完】
「これさ、お祝いっていうか、この前のお返しっていうか……」



ふっと目の前に出された、紙パック。

可愛いピンクのパッケージで“いちごミルク”と書かれていた。



「嫌いじゃなかったら、飲んで」



嫌い、じゃないと思う。いちごミルクなんて飲んだことはないけれど、きっとおいしいんだと思う。



颯見くんが選んで持ってきてくれたものだから、きっとおいしい。



すごく、嬉しい。



「女子ってこういうの好きかなって……思ったんだけど……」



なかなか受け取らなかったせいか、颯見くんは心配そうに言った。



慌ててそれを受け取って、頭を下げた。



「あ、ありがとう」



そう言って顔を上げると、颯見くんは片手をくしゃっと自分の髪に当てた。



半分隠れた、整った顔が、かすかに揺れる。



「押しつけがましいよな。でも、」



ゆっくりと、髪に当てた手が離れた。



「頑張る哀咲見てたら、俺も絶対見返してやりたいと思った」



颯見くんはそう言って、くしゃりと笑顔を見せた。



「ありがとな」



そう告げて、タイミングよく誰かに名前を呼ばれた颯見くんは、走って行ってしまった。



その後ろ姿を目で追いながら、言われた言葉を頭のなかで反復する。



――女子ってこういうの好きかなって……



ふと、浮かんだ、言葉。



まただ。

胸の奥で、トンと小さく音が鳴る。



どうしてかわからないけれど。

女子。

その響きが、こんなに嬉しいんだ。



「雫、」



隣から名前を呼ばれて、思わずふっと息を吸った。



「颯見と知り合い? あー……まぁ中雅鈴葉と仲良いから、そっか」



髪をくるくると指で絡めながら、倖子ちゃんは呟くように言った。



「じゃ、雫、一緒にトイレ行こう。化粧直ししたいし、雫もあんまり人前でそれ飲むの気が引けるでしょ」


「あ……うん」



私が答えると、倖子ちゃんはふっと笑って、私を連れて校舎の方へと歩き出した。
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