夏の幻影 ~逢ヶ魔刻の出逢い~
 誰も『不老不死』は欲しがるが、現実にそれがあるとは思わないし、信じない。

 ただの人にとっての永遠の夢なのだ。

 決して現実に受け止めない。

 年老いた彼に着くよりもまだ先の長い息子にと、今まで寄って来ていた者達は彼の元を去り始め、90歳になる頃には会社経営から全て手を引かされ、容姿が変わらない彼を見せないようにと、世間から隔離されるように生活を強いられた。

 老いない身体を不気味がられ、使用人からも避けられるようになった。

 何の為に不老不死になったのか。

 今までに何ども権威を復興させようとしたが、息子に懐柔されてしまった者は戻らない。誰も『不老不死』を信じない。

 どんな言葉で言おうが気が狂っているとしか思われず、ますます人を遠ざけてしまった。

 怪しい研究室の奴等もやって来たが、血を抜いて行ったきり、何の音沙汰もない。

 業を煮やしてこちらから連絡を取っても門前払いにされた。

『調べてみても普通の人と変わりない。気が狂ってるだけだな』

 そう言い捨てられた言葉。

 100歳を越え、ひとり寂しい毎日。

 自分には何もなかった。

 毒を飲んでも翌日にはきれいに体内で消化され翌日には目覚める。

 数日、飯を食べなくても何ともなく、手首を切ってもすぐ回復してしまう。

 誰にも振り向かれなくなった現実。ただ生きていることが苦痛になった。

 しかし『不老不死』の身体は死んではくれない。どんだけ傷つけても奇跡の生還を果たしてくれる。

 気が狂う毎日。

 そんな日をどれだけ過ごしたのか判らないが、気がつけばぼーっとしている自分がいた。

 何かを待っている自分がここにいた。


 そして今日――
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