淫雨
「安心してよ鶏肉も好きだから。
 実際うまいし。それに、一緒にいて同じものを食べないのは味気ないと思わない?」

「……同じ釜の飯をって話?」

「そうかも」


頷いた彼の嘘に気付いてしまった。


靄がかった外のスクランブル交差点で信号機が赤く点滅していたことにも。


「食事なんて一人でするものだってずっと思ってたんだ。他人と一緒に食って何が楽しいんだろうって。腹に入っちゃえば全部一緒だし、そもそもうまいとかうまくないとか、俺あんまりわかんないし」


やっぱり育ちの違いってあるよねと三崎さんは笑う。


でも虹花と出会って、人と食事することの楽しさを知ったよ。


そんな風に目を細めた彼は、辛そうにも、幸せそうにも見えた。


ふと窓の外を見やった横顔は、好きになった時と変わらない面影で優しくわたしに苦しみを与えた。
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