凪君は私の隣で笑わない
黒板には写真が何枚も貼られ、チョークで大きく書かれていた。
『相川美優は実は不良!?』
美優は教室の真ん中に、他の生徒はそれを囲むように壁側に寄っていた。
まだ暑いのにカーディガンを来ている。
きっと、怪我を隠すためだ。
「誰がこんなことしたんだよ!」
凪は写真をはがし、文字を消す。
「み……相川は喧嘩なんかしてねーよ!」
「どうだか。お前がかばったってなあ」
いかにも主犯と思われる男子生徒は、美優の隣に移動し、嘲笑する。
凪はその笑いもあるが、美優を不良呼ばわりしたのが気に食わなかった。
彼の胸ぐらを掴むと、思いっきり左頬を殴った。
彼は机ごと吹っ飛ぶ。
女子が悲鳴をあげたが、知らない。
「凪君!」
もう一度殴ってやろうと右手を挙げると、振り下ろすよりも先に、美優が掴んだ。
「やめて、凪君……」
どうして、こんな奴をかばうんだ。
そう言ってやりたかった。
だが、実際美優がかばっていたのは凪だった。
このまま凪が彼を殴り続けると、間違いなく凪は数ヶ月の停学。
中学校だから退学はありえないが、停学期間が長くなっていくことは、誰にでも容易にわかった。
凪は今日ほど今まで自分がしてきたことに後悔したことはない。
自分が不良扱いされているから、美優といたら、美優の株が下がる。
どうして、こうなることを予想しなかったのだろう。
「……放せ」
凪は美優の拘束を逃れ、教室をあとにした。
後ろから美優の呼ぶ声がしたが、当然無視。