凪君は私の隣で笑わない
好きな人といられないのに、笑うことなんてできない。
美優は凪の隣で笑いたかったし、凪の笑顔が見たかった。
そんな凪に突き放されたことにより、次第に人の心に踏み込むことが怖くなった。
またいつか、裏切られるかもしれない。
考えすぎだと言われるだろう。
それでも、もう簡単に誰かを信じることができなかった。
そして、凪と仲直りをするとは考えたことがなかった。
これを、ただの喧嘩と捉えるのは違うような気がしたからだ。
「黒羽と元の仲に戻りたいなら、自分で行動しないと、なにも変わらないからね」
まっすぐ目を見て言う灯の言葉が、やけに頭に残っていた。
そして、今まで自分の都合のいいようにしか考えてこなかったと気付いた。
……変わりたい。
なにもかも、リセットしたい。
過去を消したいわけじゃない。
あの過去があったからこそ、新しい関係が築けるような気がする。
灯には無理だと言ってしまったが、挑戦してみようと思う。
凪に挨拶をすることに。
翌朝、凪の登校時間に合わせて家を出た。
いつもより、二十分近く遅い。
これだと、遅刻確定かもしれない。
電車通学ではないことが、唯一の救いか。
「……なにしてんだ」
家の前で待っていたら、凪が立ち止まってくれた。
よかった。
「おはよ……凪君と一緒に行こうと思って」
「一人で行けよ。小学生じゃあるまいし」
凪は美優を放って、一人で歩き始めた。
しかし、美優はその背中を必死に追いかける。