凪君は私の隣で笑わない
「お目覚めか、お姫様。まずは久しぶりとでも言おうか?」
「あなた……昔、凪君と喧嘩してた……」
「そうだよ。そして、君の左腕を切ったのも、僕だ」
「あなたが……」
美優は凪を助けるのに必死で、切られた犯人の顔を覚えていなかったらしい。
「ところで……凪君を撃ったのは、あなた?」
美優は翔空の手元を見て、そう推理した。
凪は、なんだか嫌な予感がした。
また、美優が自分を守ろうとして、怪我をするのではないか、と。
今度は銃なのだ。
そして、相手は素人ではない。
凪の足を狙い、そしてきちんと当てた。
つまり、美優が凪の前に飛び出してしまうと、今度は殺されてしまう。
そうならないためにも、美優を逃がしておきたい。
どうしようかと考えていたら、翔空が天井に向かって五発撃った。
そして拳銃を床に落とし、美優の縄を解くと、ソファに座った。
解放された美優は凪のもとに駆け寄る。
「今ので弾切れだ。僕はどっちも殺す気なんかない。これはその証明だ」
「どうして……?」
「僕は黒羽凪に復讐しようと考えていた。あの日、僕たちは不戦勝というかっこ悪い結果を押し付けられたからね。今度こそ勝ってやろうと思って。それで、今朝黒羽凪の学校に行った」
凪も美優も、黙って翔空の話に耳を傾ける。
「すると、偶然君を見かけた。昔、関係ない子に傷を作ったことを、今まで後悔してて……それで黒羽凪への復讐から、君への償いに変更した」
「だから、私の願いを叶えてくれるって……」
「そういうこと。あのときは、怪我をさせたのに、謝れなくてごめんなさい」
翔空はその場に立ち上がり、深々と頭を下げた。