凪君は私の隣で笑わない
「……許さない」
美優にしては珍しく、低い声だった。
「なーんてね。嘘だよ。許すに決まってるじゃん。まあ、凪君を撃ったのは許せないけど」
隣には、昔よく見ていた、美優の笑顔があった。
「それは……」
顔を上げた翔空は、申しわけなさそうな表情を浮かべていた。
そして、言葉を探している。
「俺が悪いんだよ。真剣勝負で決着がついていないのに勝利を譲られた男は、プライドを傷つけられるようなもんだ」
さっきより、痛みがなくなったため、体を起こす。
まだ痛いことに変わりはないが。
「なんか……結局、誰が悪いのかわかんなくなっちゃったね」
言われてみればそうだ。
凪も美優も、ついでに翔空も。
全員、自分が悪いと思っていたのに、相手には自分のほうが悪いと言われ。
「みんながみんな悪かった。これで、終わりにしようよ」
美優の言う通りだ。
「だから、ごめんね」
「俺も、悪かった」
「……ごめんなさい」
三人とも、なにに謝っているのかわからなかった。
でも、これでこの件は終わった。
それから凪は病院に行き、手当てを受けた。
銃で撃たれたから、数日入院となったが。
そして退院後、美優はひっつき虫のように、凪の隣から離れようとしなかった。
灯が離そうとしても、意地で凪の隣を空けない。
「凪君、もう私の隣にいてくれるでしょ?」
これは毎日のように聞いてくること。
「無理」
「えー」
君のその可愛いふくれっ面をもっと見ていたくて、嘘をついてしまうことはまだ秘密。
《end》