凪君は私の隣で笑わない
灯は元の笑顔に戻り、美優の隣に座った。
「よろしくね、相川さん」
人見知りなうえに、人と話すことが苦手な美優は、会釈程度しかできなかった。
HRが終わると、灯は質問攻めをされていた。
本人は嫌そうな顔を一切せず、質問一つ一つに丁寧に答えていた。
質問タイムが終わったのは、予鈴がなってからだった。
「いやー、みんなの興味はすごいね。これ、転校生じゃなかったら味わえない楽しみだ」
「……嫌じゃ、ないの……?」
「うおっ。相川さん、話せたんだ。嫌じゃないよ。理由はなんにせよ、人と話せるのは楽しいからね」
灯は本当に楽しそうに笑う。
そんなふうに考えることができるなんて、尊敬に値する。
「ね、相川さんの下の名前ってなに?」
「……美優」
「美優ね。わかった。美優もあたしのこと、下の名前で呼んでね」
下の名前で……
人の名前を呼ぶこと自体、滅多にないから、なんだか妙に緊張してしまう。
「てかさ、さっきのなんだったの?黒羽……だっけ?」
「……凪君は、私のせいで嫌われ者になったの」
「え?それってどういう……」
灯が質問を続けようとすると、チャイムが鳴り、先生が入ってきた。
灯の教科書はまだ揃ってないということで、美優が見せることになった。
そして授業が終わると、灯の一言目は凪についてだった。