凪君は私の隣で笑わない
「美優のせいで黒羽が嫌われ者になったって、どういうことなの?」
「……ごめん」
美優はまだ、現実から逃げていたかったのだ。
向き合いたくない。
だから、灯に説明しなかった。
「あそこまで言っといて、説明なし?なにそれ」
灯はきっぱりとそう言った。
どうしよう……
「あ、ごめん!言いすぎた。そりゃ、言いたくないことくらい、誰にでもあるよね。あたしにだってあるし。だから、気にしないで」
気にしないでって言われると、逆に気にしてしまうものだ。
「あたしさ、思ったことはすぐ口にしちゃうんだ。で、言いすぎちゃうことなんかしょっちゅう」
美優からしてみれば、羨ましい限りだ。
美優は言いたいと思っても、それを隠すというか、相手に言えないままになってしまう。
「今は転校生だからっていう理由でみんな話しかけてくるけど……宣言しとくね。私、女子に嫌われやすいの」
「そんなことない。灯ちゃんは、嫌われない」
普段言うかどうか迷ってしまうのに、このときばかりは、即答だった。
「嬉しいこと言ってくれるね。でも、絶対そうなるから」
灯は寂しそうに笑った。
人との関わりを減らしてしまったせいで、美優は灯にどう声をかけたらいいのかわからなかった。
すると、凪が教室に戻ってきた。
騒がしかった教室が、一瞬にして静まる。