凪君は私の隣で笑わない
「歓迎されてないね、黒羽」
灯はその静寂の中、笑顔で言った。
クラスメイトの心の声が一致したのは、これが最初で最後な気がする。
黒羽になに言ってんだ、って。
どうやら、静まるの次は、凍るだったらしい。
「お前……」
「あたし、緒形灯。今日転校してきたんだ。よろしくね」
灯は凪の前に立ち、右手を差し出す。
美優が目を泳がせていたら、凪がその手を払った。
「邪魔」
凪は灯を押しのけ、席に向かう。
他の生徒は凪の通り道を自然と作る。
思いたくないが、これが凪に対する当たり前の対応だ。
「関わるなって言われたのに、あんなふうに言う?」
「ちょっとズレてんじゃない?」
「転校生だからって、調子に乗った報いよ」
……女子、怖い。
少しずつ騒がしさを取り戻した中で、陰口はやけにハッキリと聞こえた。
「灯ちゃん……」
「んー、やっぱり真正面からじゃダメだったか」
灯は笑いながら椅子に座った。
もしかして、気にしてない……?
「言ったでしょ。あたし、女子に嫌われやすいって。簡単に言えば、空気が読めないんだよね」
それ、自分で言うことじゃないと思う。
「まあ、読む気もないけど」