凪君は私の隣で笑わない
しかし、相手は凪の力が緩んだのを見逃さなかった。
その隙を狙って、ナイフを持って背後に立つ敵。
凪は美優が現れたということにまだ動揺していて、それに気付かなかった。
それに気付いたのは美優で、美優は凪をかばうように敵の前に飛び出た。
凪は美優の動きにつられるように振り返る。
「なっ……」
そのナイフは美優の左腕を切った。
地面に数滴の血を零す。
「なんで出てきた!」
凪は足元がおぼつかない美優を支える。
「あのまま、凪君が刺されるところなんて、見たくなかったの……ごめんね、凪君」
凪は悔しげに下唇を噛み、美優をお姫様抱っこした。
「凪君?」
「すぐ病院に連れて行ってやるから」
そして凪の行く手を阻んだのは、敵のリーダー。
「まだ決着がついてないのに、逃がすわけねーだろ」
「関係ない奴巻き込んどいて、なに言ってんだよ。勝負ならお前らの勝ちでいいから、そこをどけ!」
凪の言葉にリーダーは動けなくなった。
凪はそれ以上敵に構わず、美優を病院に連れて行った。
「美優さんに怪我を負わせてしまい、本当にすみませんでした」
美優の母親が迎えに来ると、凪はなによりも先に、深く頭を下げた。
「女の子にこんな傷を作るなんて……」
「待って、お母さん!凪君はなにも悪くないの。私が、勝手に巻きこまれただけなの」
今にも凪に掴みかかりそうな母親を必死に止める美優。
その左腕には、包帯が巻かれている。
夏場で半袖だから、嫌というほど目に付く。
「ごめん……」