凪君は私の隣で笑わない

凪の声は闇に消え入りそうだった。


「気にしないでよ。私、ありがとうって言ってもらえるほうが嬉しいし」


それなのに、美優は明るい声でそう返した。


「え……」

「だって、私のおかげで凪君は命拾いしたんだよ?私、目の前で凪君が死ぬのは嫌だって思ったら、体が動いちゃって」

「まったく……それで美優が怪我してたら、意味ないじゃない」


美優の母親は呆れたと言わんばかりに、ため息をついた。


「美優が勝手に飛び出したなら、あなたには一切責任はないわ」

「でも……」


美優が飛び出した理由は、凪を助けるため。

一番の原因は凪にあるとしか思えない。


それなのに、美優も美優の母親も執拗に凪を責め立てることはなかった。


「あなた、名前は?」

「黒羽です」

「黒羽君ね。もし美優に対して申しわけない気持ちがあるなら、これから美優のサポートをしてくれない?」

「もちろんです」


美優の母親に頼まれなくても、凪はそうするつもりだった。


今まで一緒にいられなかった数ヶ月を、取り戻す気でいた。


そして翌日。


凪は美優の家に行くと、もう先に行ったと言われた。


「なんだよ、せっかく一緒に行こうと思ったのに」


そう文句をいいながら学校に行くと、美優は不良扱いをされていた。
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