星空を見上げて
・・・・・
「お休みなさい」
「ああ、お休み」
食事の後片付けを終え、お風呂に入ったあと
ため息をつきながらベッドに潜り込んだ
私には記憶がない
名前も家族も仕事もどこに住んでいたのかも分らない
ある日目が覚めた時、私は病院のベッドの上にいた
その時傍にいたのが彼だった
聞くと私が乗っていたタクシーがトラックと衝突して怪我をしたらしい
彼の名は新城圭介さん、年齢は32歳
新城建設という会社の北海道支社で支社長をしているとか
以前は東京にある本社にいたけど去年ここに来たそうだ
支社長という役職ゆえか毎日遅くまで仕事をしていて
帰宅はいつも深夜近いと聞いた
それなのに時間を作り、病院に顔を出してくれていた
やがて怪我も完治し退院が数日後に決まったある日
ウチに来ないか?と誘われた
記憶のない今の私には彼以外頼れる人はいないし退院しても行くあてがない
申し訳ないと思ったが甘えさせてもらうことにした
そうして彼との同居生活が始まった
しかし同居から数カ月経つが未だに何も思いだせない
分るのは料理ができることとコーヒーを淹れることだけ
記憶をなくす前の私は何をしていたんだろう
レストランで働いていたのかな、それとも喫茶店?
この先どうなるんだろう、思いだせないままなのかな
このまま彼にお世話になりっぱなしでいいんだろうか
ようやくうとうとした頃には空がうっすら明るくなってきていた