星空を見上げて
「まさか親父があんな風に思っていたなんて考えもしなかった
俺たちはただほったらかされていた訳ではなかったんだな
もし今夜親父と葵が会っていなかったらまだ誤解したままだった
葵のおかげだ」
「私は何も」
「俺は新城の会社に入ってからはずっと仕事漬けの毎日だった
仕事以外には興味を持てずにいた俺をまわりはすごく心配していたけど
聞く耳もたなかった、いや持てなかった
耳を傾けていたら俺もちょっとは変わっていたのかもしれないのにな
そんな頃に葵と出会った
忘れもしない、あの時俺は仕事を終えた帰りだった
クルマで会社に戻る途中、俺の前を走っていたタクシーに
ハンドル操作を誤ったトラックが前方から突っ込んだんだ
俺は急ぎ救急車を呼んでからクルマを降りタクシーに近づいた
ドライバーは虫の息だったが無事だった
それから後部座席を覗きこむと
女性がアタマから血を流して座席に横に倒れていた、それが」
「私?」
「そうだ」
「まだ意識があったので救急車が来るまで俺は葵の傍にいた
そしてクルマを運転して救急車のあとを追い、病院まで付いていった
ドライバーはなんとか一命を取りとめた
葵はアタマ以外は打ち身とかすり傷程度だった
ただアタマを打っていたため、しばらく入院して様子を見ることになったんだ
俺は葵の家族に連絡をと思って葵の持ち物をみたが
身元の分るものはひとつもなく、ケータイも事故で壊れてしまっていた
連絡の取りようもなく葵が目を覚ますのを待っていたが
目を覚ましたのは事故から3日後だった、そのあとは葵も知っているとおりだ」