aventure
コンパニオンのバイト料はその日のうちに手渡しされた。

3時間で15000円というのは所得税と交通費込みでも桜智にとっては破格のバイト料だ。

「桜智、この後飲みに行っちゃう?」

「あぁ、私はちょっと…予定が…」

「え?何?誰かに誘われたの?」

「まぁ。ちょっと話ししたいって言うから…
軽く付き合ったらお小遣いとかもらえるかなぁって。」

「大丈夫?変なことされたらどうするの?」

「そんな悪い人じゃないと思う。

素性もわかってるし…」

桜智はさっき壇上で紹介された時、
あの男がこの出版記念パーティーの主役である著者の友人で著者の家を建てたという建築家だと聞いた。

名前もちゃんと覚えた。

井川鴻…それが男の名前だった。

桜智は真緒と別れるとエレベーターに乗って最上階のスカイラウンジへ鴻に逢いに行った。

鴻はカウンターに座って桜智に気がつくと軽く手をあげた。

「先程はどうも。」

「いえ、こちらこそありがとうございました。」

鴻は桜智の身体を上から下まで舐めるように眺め

「ドレスを脱ぐと雰囲気が違うね。女子大生?」

「はい。」

「20歳は過ぎてる?身分証は持ってる?」

桜智は少しビックリしたが、
地位のある男が未成年にお酒を飲ませたら困ったことになるんだと思って学生証を出した。

桜智は今日がちょうど誕生日で20歳になりたてだった。

「あぁ、ここの学生か?
勉強出来るんだね。」

「馬鹿そうに見えました?」

「いや、そんなことは無いけど…

あれ?今日が誕生日?

誕生日にこんな知らないおじさんと初めてのお酒を飲むなんて…

大丈夫なの?

それに君はもしかして今、何か困ってるでしょう?」

桜智は少しだけ鴻を警戒した。

「どうしてそう思うんです?」

「君はこれまでああいうバイトした事無いでしょう?」

「ああいうバイトって…」

「綺麗な服を着て、お酒を出す仕事。

チェイサーも知らなかったしね。」

桜智はバカにされた気がしてちょっと気分を悪くした。
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