aventure

真緒とそんな話をしていると
前から波瑠が来るのが見えた。

桜智は慌てて隠れた。

「どうしたの？」

「先輩が来た。」

真緒は柱の影から波瑠を覗いた。

波瑠はキョロキョロしながら桜智をさがしていた。

「もう行った？」

波瑠を見張る真緒に桜智が聞いた。

「うん。

にしてもカッコいいよね。あの先輩。

私ならダンゼン先輩だけどなぁ。」

「なら真緒にあげる。」

「え？バカなこと言わないで。

私にだって彼氏いるんだから。」

「だよね。」

桜智は波瑠の存在が怖かった。

好きになってしまいそうで怖かった。

真緒とお茶をしてマンションに帰ろうとしていた桜智は
マンションの入り口で波瑠に捕まった。

「桜智…どうして電話に出ないの？」

桜智はびっくりして声も出ない。

「もう終わりにするってこと？」

桜智は波瑠の手を振り解こうとして

「ごめんなさい。

先輩とはもう無理です。」

と泣きそうな顔で言った。

波瑠はその顔を見て切なくなる。

自分がしてることは許されることじゃない。

波瑠が鴻の息子だと知ったら
桜智はどうなってしまうんだろうと考えた。

「桜智…桜智の付き合ってる人は…

どんな人？」

「優しくて…頼りになって…

ステキな人。」

「本気で惚れてるの？」

「うん。」

「どうしても別れられないくらい。」

「うん。」

まるで恋する乙女みたいに桜智は鴻を思って頷いた。

波瑠は桜智が金だけでで鴻と付き合ってるわけじゃないことを知った。

金目当ての女ならどんなに楽だろうと胸が痛んだ。

波瑠は掴んでいた桜智の手を離し

「わかった。」

と言った。

その顔を見たら桜智は申し訳なくて
もう一度

「ごめんなさい。」

と謝った。

謝るのは自分の方だと波瑠は思った。

走って去る波瑠を桜智は見送り
部屋に入ろうとすると家の鍵らしきモノが落ちていた。

桜智は走って追いかけたが
波瑠の姿はすでに無かった。