aventure

「ごめん。バカにしてるわけじゃない。

コンパニオンだって立派な仕事だ。

ただ君は切羽詰まって働いてるように見えたから…

でも不慣れだけど一生懸命で好感が持てた。」

桜智はその言葉でまた少し鴻に油断してしまう。

「君…桜智さんはお酒は飲める？」

「少しなら。」

「そうか。何がいい？」

「フローズンダイキリで。」

「ヘミングウェイだね？」

桜智はヘミングウェイが愛飲していた事は知らなかったが、
ダイキリのちょっと甘い感じが好きだ。

「でもヘミングウェイはたしかシロップ抜きだった。

別名パパ・ダイキリって言ったかな？」

桜智は鴻の話しを聞きながら少しずつ酔いが回って来て気を抜いてしまった。

「パパ…ダイキリか。

なんか…パパに会いたいなぁ。」

「お父さん居ないの？」

「うん、居るけど居ない。

捨てられたの。」

鴻は何も言わず黙って桜智を見つめた。

「捨てられたからお金が無いの。

パパに見捨てられて…ママにも見捨てられて…

どうやって生きて行ったらいいのかわかんない。」

桜智の瞳から一筋の涙がこぼれ落ちて
鴻は胸がドキッとした。

「お金が欲しいの？
それとも君を守ってくれる大人が欲しいの？」

「わかんない。

でも…お金は喉から手が出るほど欲しい。」

「もしかして僕を誘ってる？」

桜智は鴻の目を見て頷いた。

「いいなって思ったの。

貴方ならいいなって…よくわかんないけど…

そう思ったの。」

桜智はそのまま記憶を失くして眠ってしまった。

鴻は下のホテルに部屋を取って
酔った桜智をベッドで寝かした。

靴を脱がすと履きなれないヒールを履いて仕事をしていたせいか、
足の小指が赤く腫れて皮が剥けて血が滲んでいる。

鴻はバンドエイドをホテルで用意して貰い
桜智の綺麗な脚に触れ
小指にそれを貼ってあげた。

自分にはもう無い若さを持った桜智がものすごく綺麗に見えて
顔が少し赤くなった。

「参ったな。」

そう呟いて窓際のテーブルに座って
ウィスキーを飲みながら無防備に眠る桜智を眺めていた。