aventure
母は波瑠に気がついて
男と組んでいた腕を外した。

波瑠は母と目が合うと
走って行ってしまった。

「翠さん?」

母の相手はもう三枝ではなかった。

「ごめんなさい。何でも無いわ。」

翠は男の腕にまた自分の腕を回した。

波瑠は家に着いて父が帰っているか確かめた。

鴻は既に家に居て、
凪と話をしてしていた。

「あ、お兄ちゃんお帰りなさい。」

「お帰り。」

鴻と凪が波瑠に気づいて
波瑠は凪の頭を撫でた。

「お兄ちゃん、ご飯食べた?

今日ママ、同窓会なんだって。

だからさっきパパとお寿司取ったの。

お兄ちゃんの分もあるよ。

待って、お茶入れるね。」

「うん、ありがと。」

波瑠にとって凪だけが信用できて、癒してくれる相手だ。

「波瑠…少し飲むか?」

鴻が焼酎をすすめて波瑠は一緒に飲む事にした。

「もう卒業だな。」

「うん。」

「卒業祝いは何がいい?

何か欲しいものがあるのか?」

波瑠は桜智が欲しいと言いたかった。

もちろん凪の前でそんな話は出来ない。

でも波瑠が今一番欲しいのは桜智だった。

「家族で旅行でも行かない?」

鴻の顔が少し曇った。

「今は忙しいからな。」

波瑠はわざと父に嫌な思いをさせる。

「そうだよね。

じゃあ新しい時計買ってよ。

スーツに似合うような。」

「わかった。週末一緒に見に行こう。」

「いいなぁ。」

「凪は来年高校卒業だろう?

卒業祝いと希望の大学に入ったら入学祝いもあげるよ。」

「本当に?」

「ああ。」

凪には何でもしてあげたいと鴻は思う。

しかし今は波瑠に目を光らせなくてはならない。

自分が波瑠を見ていなかったせいで
波瑠はあんな恐ろしい事を決行するような男になってしまった。

そんな波瑠を今はどうしたらいいのか鴻にはわからない。

桜智と関係を断ち切る事も出来ず、
鴻は日々悩んでいた。








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