aventure
桜智は波瑠を思うと申し訳なくて
それ以上鴻を愛してるとは言えなくなった。

「鴻さんのことはちゃんとする。

別れるし…家も出るから。

先輩の家庭を壊す気はないの。」

「諦められるの?親父のこと。」

「諦めなくちゃ…」

桜智が悲しそうにそう言った。

桜智は鴻を失えば1人になる。

波瑠にもその気持ちはわかる。

波瑠にとっても自分の家はもう砂の城だった。

凪が結婚して家を出たら、
あの家は流されて跡形もなく消えて行く。

そう思うと一人ぼっちで不安な桜智の気持ちもわかる。

「桜智…そしたら1人になっちゃうんだろ?

寂しいよな。

親父と別れたら俺が桜智の事何とかするから。」

波瑠は桜智を抱きしめた。

桜智は波瑠の胸に抱かれると少し安心した。

「先輩がお兄さんだったら良かったのに…」

「兄貴じゃ嫌だよ。」

波瑠は桜智にまたキスをする。

桜智はいけないと思いながら波瑠のキスを受け入れてしまった。

波瑠のキスは鴻と似てる。

波瑠の手が桜智の身体に触れても
それを拒めなかった。

それどころか波瑠の手に鴻を感じる。

「桜智…好きだよ。俺のモノになって。」

鴻と同じ声で鴻の言わない愛を囁く。

桜智は波瑠とその孤独を慰めあった。

朝、ベッドで目覚めると桜智は自分のしてしまったことを後悔した。

それでも隣で眠る波瑠を見ると少しホッとした。

誰かと一緒に目覚める朝は心地よかった。

窓のない部屋が桜智と波瑠の秘密を守ってくれる気がした。




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