aventure

鴻が部屋に来たのは3週間ぶりだった。

桜智は嬉しいというより、
鴻への不満を解消したかった。

「ずいぶんご機嫌斜めだね？」

鴻は背を向けてまともに話さない桜智を背後から抱きしめた。

「桜智…今夜は泊まっても？」

桜智は鴻に耳元で囁かれて少しずつ渇いた心が潤っていく。

「奥さんは大丈夫？」

少しずつ意地悪にそう聞くと
鴻は顔をしかめて

「妻の事なら桜智は何にも気にしなくていいよ。」

と言った。

鴻は指を桜智の肌に滑らせる。

いけないと思いながら止められなくなる。

理性だけで生きてきた事が多かった鴻にとって
桜智はいけない媚薬の様で
鴻はそれに溺れる自分に酔っている。

仕事に縛られていて逢えない時間が一段と桜智への恋しさを募らせた。

そしてその気持ちを埋めるように桜智の若い身体に溺れた。

しかしそんな時間は長くは続かない。

桜智のベッドで眠っていると真夜中に突然インターフォンが鳴った。

鴻はその音に目を覚まし、時計を見た。

深夜の2時過ぎだ。

そしてカメラを確認した。

深夜の訪問者は一瞬で鴻を現実に引き戻した。

ドアの前に立っていたのは波瑠だった。

予想はしていたが信じたくなかった。

「親父！居るんだろ？」

鴻は仕方なくドアを開けた。

裸で眠っていた桜智は慌ててガウンを羽織った。

「約束守ってないんだな？」

波瑠は桜智を見て鴻にそう言った。

「波瑠、外で話そう。」

鴻は服を着ると波瑠の腕を掴んだ。

波瑠はその手を振り払って
桜智を睨んだ。

「俺にウソをついたんだ？

桜智とは別れるって約束したよな？」

波瑠はひどく傷ついたみたいだ。

そんな波瑠を見て、桜智は怖くなった。

「親父、あんまりだよ！約束したろ？

いいか？

俺は親父を絶対に許さない！

この女のことも絶対に許さない！」

そう言って波瑠は部屋を出て行った。

鴻は波瑠を追いかけて部屋を出て行った。

桜智は波瑠の自分を見る目が怖くて
ただ震えていた。